本編
三章
「怪しいのは金子先生よね。三年棟の鍵を持っているし」
翌日の放課後、自分たちの教室のすみで、マリカと圭吾は話しあった。
「金子先生なら、斉藤さんが逃げた後、仕掛けを片付ける余裕もあったはずだしね」
メガネの縁を持ち上げながら、圭吾も同意した。予備のものだという黒縁の眼鏡は、常時のものよりもいっそうヤボったい。
マリカは腕を組んで考え込んだ。金子が仕組んだとしたら、動機はなんだろう? 自分が教鞭を振る教室で、幽霊騒動を起こして、どんなメリットがあるというんだ。
いくら考えても分からず、コーラを口に含む。
コーラはすでにぬるく、甘味がかえって不快だった。
「藤井さんが撮影した動画も見直したけど、手ブレが酷すぎて何の役にも立たなかったよ」
「ふん、悪かったわね!」
マリカは睨んだ。震える手で、懸命に撮影したというのに、人間様に向かって失礼なことを言うカピバラだ。
「ともかく」と圭吾は指を立てた。
「冷静に再検証する必要があるね。音の正体を探ろう」
「また、あそこへ行くの? 気が進まないなぁ」
「藤井さん、まさか尻尾を巻いて逃げ出すつもり?」
圭吾がくすっと笑う。
「は? 馬鹿にしないでよね!」
言ってから、乗せられたと気づいた。
「じゃ、決まりだ。行こう」
圭吾が席を立った。
奈々子といい、圭吾といい、どうして挑発して人を動かすのだろう。いや、私が挑発に乗りすぎるのか?
釈然としない気持ちで三年棟へ赴いた。
相変わらずの暑さのためか、それとも霊の噂のためか、生徒は一人もいなかった。
「音の正体を解き明かせるかなあー」
圭吾は、ずんぐりした肩を回す。
「僕は壁や黒板側を調べるから、藤井さんは床に不審なものが残っていないか調べてくれる?」
圭吾はさっそく、黒板や壁をこんこんと叩いたり、聴診器のようなものを当てたりして、調べている。
その真剣な横顔に、マリカは、どさくさ紛れに言った。
「眼鏡を割っちゃったの、悪かったわね」
「気にしないで。度が合わなくなったから、そろそろ買い替えようと思ってたとこだし」
手を止めずに、圭吾が答える。
「ねえ、なんで幽霊なんか、調べてるの」
ずっと気になっていたことを尋ねてみた。
「幽霊と会話できる装置、ユーレイ電話を作りたいんだ」
ユーレイ電話とは、また妙なことを言い出すものだ。
「なんで、幽霊と会話したいわけ? 私だったら頼まれてもごめんだわ」
「僕だって、見ず知らずの幽霊と話すのは嫌だよ。人見知りだし。でも小学生の頃に、母さんが病気で亡くなったからさ、また話してみたいんだよね――僕を理解してくれるのは、母さんだけだと思うからさ」
センシティブな理由だったのでマリカは一瞬、黙ってやり過ごそうか迷ったが、やっぱり口に出して伝えた。
「理解してくれるのはお母さんだけ、なんてこと、ないわよ。世界は広いからさ。それに、確固たる夢を持ってるのって、いいじゃん」
圭吾は振り向いてマリカを凝視した。
「藤井さんの夢はなに?」
「新聞記者よ。子どものころから憧れてたの。自分の書いた記事が、新聞になって各家庭に配達されるなんて、素敵でしょ」
だから新聞部に入った。あの生徒会のスクープ記事を書いたときは、達成感で震えた。
またスクープを狙おうと思ったけど、スクープなんて、そうそうない。
以来、わからなくなってしまった。
私はどうして記事が書きたいのだろう? 誰に何を伝えたいのだろう。
考えあぐねて、先月は記事を落としてしまったのだ。
「藤井さんって、変わってるね」
黙り込んでいたマリカに圭吾が言う。マリカは唖然とした。
「ユーレイ電話を作りたい、なんて言ってる人に言われたくないわね。私のどこが変わってるわけ?」
「科学部の連中でさえ、『幽霊なんて非科学的』と僕を馬鹿にしている奴は多いんだ。クラスでも僕、浮いちゃってるしさ。でも藤井さんは、僕を信じてくれているように見える。少なくとも、僕の考えを馬鹿にしていないだろ?」
「自分の考えと違うから、自分が理解できないから、といってすぐに否定するのは違うかな、って思ってるだけよ」
「頭ごなしに否定しないって、大事なことだよ。科学にとっても……」
説明しようとした圭吾を、マリカは遮った。
「心霊現象を『馬鹿げてる』って切り捨ててしまったら、新しい発見を逃しちゃうかもしれないもんね! そういうことでしょ?」
同意を求めるために圭吾を見ると、なぜかびくっとして下を向いた。心なしか顔が赤くなっている。
「どうしたの?」
覗き込むと、「や、やめて」と蚊の鳴くような声で言って、顔をそむける。
このリアクション、まさか私に惚れたとか? 私ってば美人だから無理もないけど、とマリカは髪をかきあげた。
「そ、それより藤井さん、ちゃんと床、調べてる?」
「ぱっと見、床に不審なものはなさそうよ? 落ちているのば、ホコリや消しゴムのカスくらい」
「それは何?」
圭吾が、床に落ちているホコリを指さす。
マリカがつまみ上げると、動物の毛だった。野良猫が忍び込むのだろうか。これだけ古い建物なら、十分あり得そうだ。
「動物か」
圭吾は、教卓を端に移動させると、その上に椅子を載せてよじのほった。
「危ないわよ」、とマリカは椅子を押さえてやる。
「動物がいたとすれば、怪しいのはこの中だ……ほら、あったよ」
黒板の上を横切る、太いストーブのエントツをのぞいた圭吾が、茶色い毛を摘み出した。
「じゃあ、あの音は、野生動物がエントツに侵入して、動き回ってた音かもしれないの?」
なるほど、という気持ちと、拍子抜けという気持ちが湧き上がる。
「エントツ内で音を出せば反響するからね。女子の泣き声や、足音も、エントツから発生させていたのかも」
圭吾はスマホのスピーカーを起動し、エントツの中に入れた。
コツコツコツコツコツコツ
不気味な足音が、こちらに近づいてくるように、響く。
「やっぱりそうだ。端末を遠隔操作したのか、単にタイマーで鳴らしたのかは分からないけどね」
「なるほどねー」と手を叩いたあと、マリカは眉を寄せた。
「じゃあ、ゆうべは誰かがエントツに動物を仕込んだの? それとも、たまたま動物が入り込んだだけ?」
圭吾は窓から身を乗り出して外壁を調べた。それから隣の二組に行って、すぐに戻ってきた。
「隣の教室のエントツには、校舎の外側も、教室の内側も、蓋がついていたよ。でも、一組にはそのどちらも無い。誰かが、蓋を取って故意に動物を入れておいたんだと思う。僕らを脅かすためにね」
「でも、私たちが来たタイミングで動物が音を出す保証はないわ。蓋が無いなら、とっとと逃げ出すかもしれないし。そんな不確実なことをするくらいなら、スマホで音を出した方が賢明よ」
「藤井さんにしちゃ、至極、真っ当な指摘だ」
圭吾が頷く。藤井さんにしちゃ、ってもしかたしたら馬鹿にされているのか? 抗議しようとした時、
「――声がすると思ったら、また新聞部かい」
急に声をかけられて、振り向くと戸口に教師の金子が立っていた。
金子が幽霊騒動の犯人だと思っているマリカは、とっさに身構えた。
「取材熱心なのはいいけど、僕、今日はもう帰るから鍵は貸せないよ」
「あら、早いんですね」
「七年目の結婚記念日なんだ。こんな日くらい、早く帰らないと、妻に愛想つかされちゃうよ」
「そういうことなら仕方ないです。すぐ撤退します」
マリカは素直に答えた。
「幽霊の正体はわかりそう?」
金子が華やかな笑顔で尋ねる。
「残念ながらまだですねー。何か原因や仕掛けがあるとは、思うんですけど」
マリカは肩をすくめてみせた。
「そりゃ、そうさ。僕と斉藤が見たのも、誰かのイタズラに違いないよ。幽霊なんて、存在しないんだから」
決めつけるような言い方に、思わず嫌悪感が湧く。手荒く荷物をまとめて教室を出ようとし、ふと、足を止めた。
「そういえば先生は、ずいぶん前からこの三年棟で教鞭を振ってらっしゃるんですよね?」
「もう十年になるかな」
「七年前に行方不明になった女子のことも、ご存じですか?」
マリカが問うと、金子はわずかに眉を寄せた。
「失踪当時三年生だったからね、当然知っているよ。生徒の名前は白川睦子だ」
どこか苦し気に金子は言い、視線を落とす。
「成績不振で、将来を悲観して失踪したようだ。今もどこかで元気に生きていてくれたら、と願ってるよ」
金子の表情からは、華やかさがすっかり消えて、疲れが滲んでいるように見えた。
*
「ちょっと、三年棟の裏手をのぞいてみよう」
帰ろうとしている圭吾に声をかけて、裏手にまわった。
「ねえ、こうは考えられない? 犯人は外から三年棟へ梯子をかけて、私たちが来るのを見計らっていた。私たちが教室に入ったタイミングで、エントツの排気口から動物を入れた……」
裏手には花壇があるが、やろうと思えば、二階まで長梯子をかけられそうだ。
「梯子なんて掛けたら、僕らが窓の外をのぞいたら一発でバレる。リスキーだよ」
「そうよね。なるべくなら証拠を残したくないわよね……」
花壇の、色とりどりのポピーが風に揺れて、笑っているように見えた。
ふと、花壇の隅が、きらりと光った。
小さな金属が、土のなかから雑草に押し上げられたようだ。指でほじくり出すと、華奢なシルバーの指輪だ。サイズからして女性用のものだろう。
ハンカチでこすると、内側にイニシャルが刻んであった。
「KMか……。金子先生の名前は、勝よね。やっぱり、怪しいわ」
「でもさ、金子先生が幽霊騒動を起こしたのなら、『幽霊は存在しない』なんて発言するかな? 斉藤さんに、『他言しないように』なんて口止めも、するはずがない。何かもっと裏があるはずだよ」
圭吾は目をつぶって、考えこんだ。
*
自宅の風呂場で、マリカは力いっぱい頭皮を泡立てた。
洗面器に汲んだお湯を頭からかぶり、湯船につかる。
なんで動物を使って音を立てたんだろう?
三年棟を出た時から、その疑問がマリカの頭の中を巡っている。
どのみち音の出所はエントツなのだから、スマホやタブレットをエントツに仕込んでおいた方が確実だ。
だが、いくら考えても、納得のいく答えを思いつかない。
もしかしたら、本当に動物が紛れ込んだだけなのかもしれない……。
ジップロックに入れて浴室に持ち込んだスマホを見ると、一年部員のカナから着信履歴があった。
マリカはスピーカーモードにしてカナにかけなおした。
〈もうすぐ記事の締め切りですよね? お手伝いしましょうか?〉
ありがたい申し出だが、先輩としてはちょっと情けない。
「もうカナに丸投げしちゃおっかな」
茶化して言うと、
〈いや、丸投げはちょっと……〉
カナは空笑いした。
「締め切りにはまだ間があるはずなんだけど、奈々子先輩は早め早めで動くからなあ」
マリカは愚痴りながら、湯船を出た。
〈お母さんに、早めの行動を叩き込まれた、とおっしゃってましたよ。継母らしいのに、教育熱心で、いいお母さんですよね〉
「あれ、奈々子先輩の本当のご両親って、離婚してるの?」
その時、マリカは浴室の床で足を滑らせた。
体が宙に浮く。こういう時、スローモーションに感じるのはどうしてだろう。
ゆっくりと落下しながら、脳裏に色いろんな事象が浮かんでは消えた。
噂。白川睦子。科学調査。動物の毛。新聞部。指輪。
次の瞬間、後頭部に、ずしりとした痛みが走った。
「いったあああぁぁぁ」
〈すごい音がしましたよ〉
「思考が明滅したわ。脳の神経は電気信号で情報を流してるんだってね。今それを、体感したわ」
〈え、頭、大丈夫ですか?〉
カナは、失礼ともとらえられるセリフを言った。
「同じクラスの圭吾って奴が言うには、幽霊も電気らしいよ。だから、電磁波測定器で幽霊を見つけられるって……」
〈スマホみたいですね〉
カナがつぶやく。
スマホ……? そうか、犯人が動物を使ったのは、スマホやタブレットから電磁波が観測されるのを警戒したからか。
マリカは息をのんだ。
考えはストンと落ちて、パズルのピースのようにはまった。
だったら金子は犯人ではない。
犯人は科学調査をすると知っていた人物だ。
その人物は、霊の噂に、「七年前に失踪した白川睦子」という尾ひれをつけたのと同じ人物かもしれない。
〈マリカ先輩、ほんとに大丈夫です?〉
急に黙り込んだマリカを心配してカナが声をかけた。
「ちょっと確かめなきゃならないことがあるから、切るね!」
マリカは電話を切ると、自室に行って新聞部の連絡網を引っ張りだした。緊急時用のものなので、部員の自宅の電話番号も載せられている。
思い浮かんだのは、荒唐無稽で強引な推理だ。
だが、ここまで来たら、確かめるしかない。
ひとつ深呼吸してから、奈々子の自宅番号をスマホに入力し、ダイヤルボタンを押す。
もしもし、と中年女性の声が受電した。奈々子の継母だろう。
「白川さんですかぁ?」
マリカはとぼけた声で尋ねた。
女性は一瞬、ためらったようだった。
少しの間のあと〈白川は、主人の五郎が別れた元妻の姓です〉と答えた。
つながった!
喜びよりも、ぞくりとした高揚に体を支配される。
〈もしもし……?〉
「あ、大変失礼しました」と電話を切り、次に圭吾に電話をかけた。
圭吾が出るや否や、マリカは思いついた考えを早口で喋った。
〈えーとつまり、幽霊騒動を引き起こしたのは、新聞部の奈々子さんだって言うんだね?〉
戸惑い気味に、圭吾が復唱する。
「動物を使って私たちをおどかした理由に気づいたの。私が新聞部のグループラインで、科学捜査をすると発言したからよ。スマホとかの電子機器を使って音を出したら、電磁波でバレるかもしれないと懸念したんだわ。だから、わざわざ動物を使って音を出したのよ」
〈それで新聞部部長の奈々子さんだと思ったのか〉
「ええ。私に心霊記事を書くように指示したのは奈々子先輩だからね。で、確かめてみたら、奈々子先輩の生みの母の姓は白川だったの。奈々子先輩は失踪した白川睦子の妹なのよ。両親が離婚して、奈々子先輩は父親の五郎さんに引き取られたから姓が違うけどね」
スマホの向こうから、圭吾が息をのむ気配がした。マリカは続ける。
「奈々子先輩は、まず怪音を発生させて幽霊騒動を起こし、そのあと、教室の扉の上に幽霊の仕掛けを作って、睦子さんの霊を出現させた。その次に私たちを、動物を使って異音を立てておどかしたってわけ。どうやってタイミングよく動物を動かしたのかはわからないけれど」
〈あ、そのカラクリ、わかったかもしれない〉
「どうやったの!?」
〈うちは猫を飼ってるんだけど、旅行に行く時は自動給餌機に餌を入れておくんだ。タイマーをセットしておいて、時間が来るとフタが開く、アナログなものだよ。もちろん電磁波も出さない〉
「それで?」
〈犯人は二十時過ぎに自動給餌機のフタが開くようにセットし、その中に夜行性のネズミか何かを入れて、エントツの中に仕掛けたんだ。フタが開けば、ネズミは待ってましたとばかりに駆け出し、そのままどこかへ走り去る。給餌機は次の日の早朝にでも回収すればいい〉
「だったら、ネズミじゃなくてハムスターだわ。奈々子先輩、ハムスターを飼ってたもの!」
マリカは指を鳴らしたが、圭吾はうなった。
〈でも、幽霊騒動を起こした目的はなんだろう?〉
風化した姉の失踪事件を、思い出させたかったとか? いや、違うな。
そんなふんわりした目的ではないだろう。
奈々子は理性的な性格だ。
〈藤井さん。真実がどういう姿なら、意味がでてくるかを考えてみたら?〉
「どういうことよ?」
〈なぜ三年棟で幽霊騒動を起こしたのか、考えるんだ。今の三年の生徒のなかに、白川睦子さんを直接知っている人は、まずいないでしょ。教師陣のなかにもいない――金子先生を除けばね〉
「あ、奈々子先輩の狙いが、金子先生っこと?」
〈これは、まったくの想像だけどさ。白川睦子さんと金子先生の間には、人に知られない関係性があった、とは考えられない?〉
圭吾が言った瞬間、マリカの脳裏で、花壇で拾ったシルバーの指輪が光った。
もしかしたらあの指輪は……かつて金子先生が睦子さんにプレゼントしたものかもしれない。
「二人は隠れた恋人同士だったのね!?」
〈かもしれない。けれど、二人の関係は悪化し……睦子さんを邪魔に思った金子先生が、彼女を殺した〉
「大胆すぎる推理だわ。教師が教え子を殺すなんて」
マリカは否定しようとした。でも、思い出してしまった。
金子は、結婚七年目だと言っていた。睦子が失踪した年と同じ年に結婚したのだ。
自らの結婚に、睦子が邪魔になったのかもしれない。
殺害後、金子はうまく死体を隠蔽し、睦子は失踪したものと思われた。
が、殺害から七年後、睦子の妹である奈々子が金子を怪しみ、幽霊を出現させた。担任である金子の様子を観察するために……。
刹那の間に、瞬くように考えていると、あっ、と圭吾が叫んだ。
「何よ?」
〈もしこの推理が当たってたら、奈々子さん、危ないんじゃない? 奈々子さんが仕組んだ騒動だと気づいたら、金子先生は放ってはおかないと思う〉
「奈々子先輩を殺すってこと……?」
背筋がすっと冷えた。
〈金子先生は担任なんだから、調べようと思えば、奈々子さんと睦子さんの関係はすぐに分かるよ。そもそも名前からしてバレバレだ〉
「睦子と奈々子よ? どうしてバレバレなのよ」
〈奈々子さんのお父さんの名前は五郎さんなんだろ? 五郎、睦子、奈々子……五、六、七の並びになってる〉
「ちょ……私、奈々子先輩に電話するわ!」
通話を切り、すぐに奈々子にかける。が、どれだけ鳴らしても、奈々子は出ない。
先ほどかけた奈々子の実家にも電話を掛けた。すると継母が出て、「三十分ほど前にコンビニへ行った」と言う。
マリカは再度、圭吾に電話をかけて、そのことを告げた。
〈僕、イヤな予感がする。これから学校へ行ってくるよ〉
「だったら、私も行く」
〈危ないかもよ?〉
「あんただけじゃ、頼りないわよ」
〈アハ、たしかに。じゃあまたあとで〉
通話を切ると、マリカは鏡に向き合った。
風呂上りだというのに、顔が青ざめている。
ひょっとしたら自分は、幽霊よりも恐ろしいものに、立ち向かおうとしているのかもしれない。
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