本編
【第四章:二】
まさかのユージーンに敗北した俺。
この現実を受け止めるにはあまりにもショッキングで、プライドもずたずたである。
話によると、あるシミュレーションゲームで意気投合し、その世界で恋人同士となり、バーチャルな生活を共に営んでいるのだという。つまり、対面をしたことはなし。
無論クリスマスにもそこで会う約束をしており、一応我々のオフ会には参加するが、夜からは抜けるのだそうだ。
たとえバーチャルだろうと、羨ましい話である。
クリスマス当日、駅前には赤い三角帽子を被ったカップルやらがうろうろしており、ウキウキと楽しそうで、シングルな俺には眩しすぎた。
ひとりもんが出歩いちゃいけないようなこの雰囲気は、一体何なのだろうか。
そんな心の隅々にまで吹き付ける寒さ、それが終われば春になり、いよいよ就職活動を目前に控え、リア充どころの話ではなくなる。
つまりこのクリスマスは言わば学生最後のクリスマス。そんな日に他者のため恋のサンタに徹しなければならないという悲報。
俺の人生、オワタな……
マリオネットや、これは完全に、マリオネットや……
「ナイトレイさーん! メリクリ―!」
ユースケがいつもの軽いノリで向こうから走って来る。
胸には2本の赤い……薔薇?
「今夜は、俺がナイトレイさんのサンタになりますよっ!」
いや、逆だろ……
どういうことだ? な表情をするとユースケはにやっとニヤけながら薔薇を一本取り、俺のシャツの胸ポケットに入れた。
いつもの……嫌がらせか?
「俺はいらないだろ」
「ふふふ、いるんすよ、それが。俺からのサプラーイズっす! いつもお世話になってたんで、兄貴」
チャラいくせに意外に義理堅いらしいが、一体何が始まるのか。
怖い、怖すぎる……
すると「あ、来た来た。おーいっ!」と手を振るユースケの視線の先からはある女性がこちらへ歩いて来るところが見えた。
か、可愛い……
「ナイトレイさん好みのキャンディさんには似てなくて可愛いんっすけど、キャンディさんから娘さんがシングルって聞いたんすよ。シングルって聞いたんすよ。だから、俺が招待しました! キャンディさんも、ナイトレイさんのこと気に入ってるみたいだったし、今夜はお見合いっす!」
序盤軽く失礼だけど、お前、でかしたぞっ!
むしろ似てなくて、いい!
「一緒に恋を掴みましょ、兄貴っ!」
おうよっ、弟よ!
そしてお目目パッチリのいかにもあの顔文字を生み出しそうな、フェミニンコーデの美少女は俺の目の前で、止まった。
「初めまして、えっとナイトレイさん、ですよね」
「はい、そうです! ナイトレイっす!」
——俺の恋は今、始まった。
Merry X’mas
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