アニログ小説「おふ恋」Episode3

本編

【第二章:一】

 さあ、失恋もしたことだし、バイトを再開しようかな。うん、それがいい。

どうせ期待していたこの夏はひとりぼっちだし、あわよくば新たな出会いがあるかもしれない。

……いや待てよ、期待し過ぎるのは良くないな、うん、痛い目にも遭っているわけだし。

その痛い目を見たオフ会、メンバーの仲も懸念材料となってしまったが、どうやらそれは取り越し苦労だったようだ。

意外にも皆の息は更に合い、ギルドランクも上がってからはちらほらと新人が入って来るようになっていた。のだが、キャンディの正体が明かされると音信不通になった。

ただ、そんな出入りの激しかった我がギルドに、ある強力な新人が現れた。

ユースケ:よっろしくぅー! ユースケでぇーっす! 高校生でーっす!

ユージーン:おお、また新人さんか、よろしくなっ!

ナイトレイ:よろしく!

マリオネット:何や、やかましそうな奴やなぁ

キャンディ:.*:・(*’ー’*人)・:*・ヨロシクネ♪

ユースケ:うわっ、キャンディちゃん、めっちゃかわいいねそれ!

マリオネット:やめとけ、オバハンや

ユースケ:あ……え、そうなんだぁ、そうかぁ

やかましそうなユースケさえも萎えさせるこのパワー

スウ:ユースケって本名?

ユースケ:はいっ、そうでーす!

ナイトレイ:本名はなるべく使わない方がいいかと

ユースケ:えっ、そうなんすか? 確かにみんな個性的な名前っすね。僕にもつけてくださいよぉ、何か

マリオネット:おばかそうやから「オバカン」なんてどうや?

ユースケ:ちょっとー、それ普通に悪口じゃないっすかぁ、嫌ですよぉ

ユージーン:王位継承者として生まれ、王の腹違いの弟の嫉妬により別の赤子とすり替えられ島流し、荒れ果てた地から成り上がる異国の王者、アレグザンドロスなんてどうかな?

ユースケ:前置き長くてよくわからなかったんすけど、かっこいいっすね!

スウ:名前負けするかも

ユースケ:ちょっとー、みんな厳しめだなぁ、確かに弱いっすけど

ナイトレイ:レベルいくつ?

ユースケ:やっと20いったんすよ。ギルドに入りたくて

ユージーン:うわっ、20かっ!

キャンディ:あたし67

それ、レベルだよな、年齢じゃ、ないよな……

ユースケ:マジっすか! 凄いっすね!

マリオネット:装備も何だか貧弱際立ってるのう。棒っ切れみたいの持って

スウ:私も気になってた、それ

ユースケ:そう、この棒っ切れ、敵からのドロップで、ずっとこれっす。20までめっちゃ時間かかったんすよ。気がついたらリアルで学年上がってた、みたいな

ユージーン:みたいな、じゃなーいっ! お主はハンターじゃないかーっ! ハンターは弓なんだよ、弓っ!

ユースケ:そっかぁ

ユージーン:そっかぁ、じゃなーいっ!

スウ:ギルド不適合

ユースケ:えーっ! 入れてくださいよぉ、何か楽しそうだし、ここ

まさかの、気に入ってる……

そんなこんなで、ユースケは去る気配もなく、ギルドの一員となったのだった。

ところがこのユースケという新人、物事をまともに覚えようとしない。聞けばチュートリアルさえろくにこなしていないのだという。

つまり上級ギルドにとって完全なる足枷、皆彼のレベル上げに付き合い、精魂尽き果てていた。

上級ギルドが討伐するのは無論強いモブになるので、低レベルのプレイヤーがそこにいる場合、即死を余儀なくされる。

死んでしまっては報酬や経験値を獲得できなくなるのだ。故に彼を庇いながらプレーする必要があり、想像以上の労力と時間を要していた。

スケスケ:オレ、結構強くなったじゃないっすかぁ。そろそろ名前変えてもいいっすかね

スケスケというハンドルネームはマリオネット考案によるものだった。

色々と透けているようで嫌だと抵抗するユースケに、腕前が上達したら改名してやるという条件で承諾させていた。

スウ:技術じゃなくて武器が良くなっただけ

スケスケ:キビシー!

マリオネット:名前、変えたいんやろ? もっと頑張らなあかんで

ユージーン:本当、エイムも全然だし、エイムってなんすかと聞かれた時には愕然としたものだよ

ナイトレイ:どうしてハンター選んだの?

スケスケ:何かかっこいいじゃないっすか、響きが

俺は、聞かなきゃよかった、とその時思った。

マリオネット:お前、オバカンに降格したろか

スケスケ:嫌だぁー、それだけは、いやだぁー!

キャンディ:すけちゃん (๑و•̀ω•́)وガンバッ

スケスケ:すけちゃんってあだ名もやだー! あ、そうだ

すけちゃんには、突然話を急カーブさせるクセがあった。

スケスケ:オフ会しましょうよー!

冒頭3文字に眩暈を催す。

ユージーン:オフ会だとーっ! まだまだ鍛錬が足りない生半可な人間がよくもまぁ。そんなことに現を抜かしている場合ではないだろうっ!

スケスケ:いいじゃないっすかぁ、オレもっとやる気出るかもしれないし

マリオネット:なんでそんなに会いたがるん? キャンディはオバハンやと言うたやろ

スケスケ:オレいろんな人に出会うの好きなんっすよね。学校以外の世界広げたい、みたいな

ジジババとの世界を繰り広げて、一体何がしたいというのだ、こやつは……

スウ:いいよ、胸にバラ挿して来て

グフッ

スケスケ:やったー!

そして二度目のオフ会が、開かれることになった。

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